ロシアのレンズ史の中にあっては伝説的なレンズである МИР-1 。1954年に設計され、1958年ベルギー・ブリュッセルで開催された万博でグランプリを獲得、その後も基本設計を変えることなく外観デザインの変更のみで21世紀まで生き残った実に長命のレンズ。 グランプリ獲得が息を永らえた理由なのか、あるいはそのクオリティゆえかは分からない。ただ、例によって西側技術のコピーではあるが、描写力はそのモデルとなったカール・ツァイス・イエナ社のフレクトゴン(35mm/F2.0)に負けず劣らず美しい。オールドレンズならではの温かみある描写はコピー元譲りのレトロな味わいがある。 さらに特筆すべきは、その求めやすさだろうか。長きにわたって製造されただけに、モスクワの蚤の市(ベルニサーシュ)でも常にいくつかの個体が転がっていた。勢い、黒鏡胴から銀鏡胴まで、いくつかのバージョンを買い求めてしまうが、コレクターに人気なのは、やはり万博でのグランプリ獲得が刻印されたもの。それも英語表記だったりロシア語(キリル文字)表記だったりと様々なバリエーションがある。 見慣れぬキリル文字の刻印入りのほうが希少価値とばかり(実際、値段も高い場合が多い)、つい手を伸ばしてしまうが、我々МФКのオールドレンズの知識の源泉、ロシア人のレンズ商F氏は、こうアドバイスをする。 「ロシア国内向けに製造されたものより輸出向けのもののほうがクオリティが高い」 つまり、キリル文字だけのモデル(=国内向け)は、やや品質が劣るようだ。レンズとしてのスペック、デザインは同じだが製造過程における気持ちの込めようで出来不出来があるのだろうか。いかにもロシアらしい人間味あふれるサジェスチョンである。 2018年9月15日~24日開催の「レンズの奥のロシア展」の会場で展示する予定です。
レンズ名 | МИР-1/1B、MIR-1/1V (黒MIR-1V 85年製、銀MIR-1 67年製、黒MIR-1 71年製) |
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製造会社 | VOMZ(ヴォログダ光学機械工場)など |
マウント | 黒MIR-1B M42、銀MIR-1/黒MIR-1 L39 |
焦点距離 | 37mm |
開放絞り | F2.8 |
光学系 | 5群6枚 |
最短撮影距離 | 0.7m |